人によってイメージは異なるだろうが、僕のもっている<カンパーニア州>のそれは、<海>のイメージが強かった。
だから今回のセミナータイトル、<Viticoltula di Montagna(山のぶどう栽培)>というのは、少し意外な感じがした。
過日、10代目当主ピエロ・マストロベラルディーノが来阪、ランチセミナーをご一緒させて頂いた。
メインテーマは、日本初輸入の新しいシリーズ、<スティレマ>のお披露目とそのアッビナメント。
会場は、靱本町オピューム。
実はマストロベラルディーノとオピュームとは深い繋がりがある。
というのも、今年で創業40周年(!)を迎えるオピュームが、数多の造り手を迎えてきたその最初が、他でもないマストロベラルディーノだからだ。
店内には数々の思い出深い造り手のサインボトルが飾られていて、マストロベラルディーノのボトルもその日、ピエロを出迎え、再会を果たしたのです。
ランチセミナーのはじまりはピエロによるカンパーニアの歴史と現在、マストロベラルディーノの300年以上にわたる歴史と現在についてを簡潔に説明、最初の白ワイン、<ネロアメタ2019>で乾杯となった。
<マストロベラルディーノのためのプランツォ>と銘打ったランチの最初のお料理は、<サラミのパテを詰めたグジェール>。

「はい、シュークリームでーす!」というオーナーのおどけた説明が場を和ませる(笑)
手に取って食べるそのスタイルにピエロも、「若い頃を思い出すよ」とご満悦。
ほんの少し収穫を早めたアリアニコを白ワインとして仕上げたネロアメタと、心地良い相性。
メインテーマであるスティレマの前に、ソムリエール石垣さんからコースの説明が入った。
「事前にワインを試飲した時、魚介よりもお肉料理との相性が良いと感じたので、シェフと相談して特別に創りました」
続くワインはフィアノ、グレコそしてタウラージと白が多めだっただけにその言葉は意外だったが、そのアッビナメントは全て完璧。このランチにかける想いをも、しかと感じることができた。
お料理とのアッビナメントは以下の通り。
前菜
スティレマ・フィアノ・ディ・アヴェッリーノ・リゼルヴァ2019
鶏胸肉のプロシュット 金柑と百合根のクリーム添え
パスタ
スティレマ・グレコ・ディ・トゥーフォ・リゼルヴァ 2018
ニョッケッティ・サルディ アワビとその肝のソース

メイン料理スティレマ・タウラージ・リゼルヴァ 2016
仔羊肉の煮込み
ラディチ・タウラージ・リゼルヴァ 2016
仔羊肉のロースト タプナード添え
ここで、スティレマについて説明しよう。
スティレマは2014年、ピエロにより考案されファーストヴィンテージは2015年。
直訳すると、古い文語体の「スタイル」で、特定の人の「流派」や「様式」を意味する。
そしてここでのスタイルとは父であるアントニオのことで、1960~70年代のワイン造りを踏襲する。
・クリュの概念ではなくキュヴェ(ぶどうの選別)の概念を優先。
(だからスティレマは畑の名ではない)
・白ワインにおける長いシュール・リー。
・赤ワインにおける低温短期マセレーション。
・瓶内での長期熟成の末にリリース。
これらに加えスティレマを名乗るワインは全て標高の高いぶどうを使用する。
当然の帰結ながらその過程を経たワインは長期熟成に長け、時を経れば深みが増すように造り手ピエロが意図したものだ。まもなく2023年ヴィンテージがリリースされる白ワインにおいては2019年が現行というから驚きだ。
実際、スティレマは全てリゼルヴァの表記がなされている。
タウラージのリゼルヴァは見かけるが、フィアノもグレコもリゼルヴァ表記されたワインを、僕は今まで見たことがない。
ラベルもボトルデザインも、全てピエロによるものだ。
<調和>を意識したという本人の言葉通り、なにかが突出することなく、スケールが大きくも、うるさくない。
これは通訳小林さんの話だが、ピエロは自身のワインを語るとき、しきりに「Agilita」と表現する。これは直訳すると「すばやい」という意味だがピエロの意図は、「引っ掛かりがない」「しなやか」といった「もたつきのない」という意訳に辿りついたという。マストロベラルディーノのワインを知る人なら納得の言葉であろう。
ピエロは終始柔和で物静かな語り口調だったが、その彼が幾分興奮気味に語ったのがお料理とのアッビナメントについてだ。
シェフとソムリエとの連携で成り立つアッビナメント。
この会のためにどれだけの話し合いと試食がなされてきたか、食事を通してピエロは解ったのだろう。
目をキラキラさせながら手を合わせてシェフとソムリエールにお礼を述べていたのが印象的だった。
古きワイン醸造を現在の技術で再現する。カンパーニアにおけるルネサンスの縮図ともいえるスティレマは、カンパーニアのワインをプレステージへと昇華させた存在といえよう。
これは、ピエロ・マストロベラルディーノでなければできなかったことだ。
ランチの席では他にもいろんな話をした。
ナポリのこと。ピーノ・ダニエーレのこと。
リストレット大好き!ってことも納得したし、彼のホストテストは誰よりもスマートで色気があった。
物静かで柔らか、スマートで色気がある。
そして彼には、威厳がある。
創立から10代続く家系の長、そしてカンパーニア州における王の風格が、ピエロに感じられた。
1930年から日本に輸入されているマストロベラルディーノ。
そんな昔に輸入され今も変わらず愛され続けている造り手は、そう見つけられるものではない。
その偉大さをもっと知ってほしいし、知られるべきとも思う。
やたら長くなったのは、その強い想いによるものなのですよ(言い訳w)