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イタリアワイン

ヴィンサント・デル・キアンティ・クラッシコ セミナーレポート全文。


 お客さんには届いていると思うが、ロッカ・ディ・モンテグロッシ のマルコさんが来日、ヴィンサントのセミナーの模様をレポートした。
 長いけれど、参考になると思うよ。
 読んでみてね ♬

ロッカ・ディ・モンテグロッシ

ヴィンサント・デル・キアンティ・クラッシコ セミナーレポート

有限会社エノテカ・ビアンキ 丸谷 崇

 セミナーには多数参加しているけれど、ヴィンサントだけに特化して話を聞いたのは、今回が初めてではなかろうか。

 322日、東京・青山にて、ロッカ・ディ・モンテグロッシのオーナー、マルコ・リカーゾリ・フィリドルフィ氏本人による「ヴィンサント・デル・キアンティ・クラッシコ」10ヴィンテージの比較テイスティングセミナーが開催された。


「大変なテイスティングになるだろうから、今回は赤ワインも除いてヴィンサントだけにした。」

 マルコの挨拶で、説明が始まった。


 醸造学的に、イタリアだけでなく世界的にみても唯一無二のもの。それがヴィンサント。

 そんなワインが今日まで広く伝わらなかった理由は、市場に多く出回るヴィンサントの、品質の低さにあった。無論現在は、そのイメージは改善されてきてはいるが、まだ過小評価されているのではないか。

 何故、多くのヴィンサントが好ましくない味わいを呈しているのかとマルコは考え、その理由の筆頭に、「クリーンでない醸造環境」を掲げた。

 ヴィンサントに使われるブドウは、特別な部屋で「陰干し」の過程を経るが、通常、収穫したブドウは棚に置いて乾燥させる。その際ブドウの下に敷かれる「ゴザ」がまず、清潔でない。その結果、ブドウに腐敗菌が多く付着し、当たり前だがそれらを搾ったマストは少なからず、濁る。そのような状態で樽に入れられた液体は、67年、忘れられたように放置される。

 このように醸されたヴィンサントはギャンブルのようなもので、10樽仕込んだ内の23樽が良ければ御の字というもの。

 樽を開けた時の大半が落胆で、2割程度という少ない成功に狂喜していた。

 マルコはその不安定な生産性を改善すべく、「クリーンであること」を念頭に、本格的な醸造に取り掛かった。1997年のことだ。


 ロッカ・ディ・モンテグロッシの土地「モンティ・デル・キアンティ」は標高が高く石の多い土壌。ヴィンサントの原料ブドウを造る上で、「フレッシュさ」、「優美」、「ミネラル」を高い次元でバランス良く備えることができる場所である。

 彼が造るヴィンサントのブドウは、マルヴァジア・ビアンカのみ。美しく育てられた半透明のブドウを10月に手摘みで収穫。

 ブドウは「ヴィンサンタイア」と呼ばれるヴィンサントを造るためだけの屋根裏部屋に運ばれ、そこで陰干しされる。通常はブドウを棚に置いて乾燥させるが、マルコはそれを撤廃した。

 その理由は、棚に置くとブドウは自らの重さで果実が潰れてしまい、そこから腐敗菌が繁殖して広がる。また、その部分を目で見てチェックすることができない。

 そこでマルコは、ヴィンサンタイアの天井から可動式のネットを設置し、その網目に一つ一つブドウの房をぶら下げて乾燥させることにした。こうすることで、ブドウを万遍なく乾燥させることができ、ブドウを全方向から見ることが可能となった。腐敗果を取り除くことができるだけでなく、彼のヴィンサントに不可欠な「貴腐菌」の付着をチェックすることができるようになったのである。


 全ての果粒に貴腐菌が付着したのを確認して、収穫から34か月経過したのち、ブドウはプレスされる。乾燥と貴腐菌の影響で果実の70%近くの水分が失われているため、極めて緩やかに、丸一週間かけてプレスされる。

 長い時間をかけてプレスされた果汁は発酵と熟成の過程に移るが、プレスされた直後の果汁は普通、濁っているので、温度管理されたステンレスタンクに移し沈殿した不純物を取り除く。そうして得られたきれいな果汁を、100リットル以下の小さな樽<カラテッロ>に入れる。この時、果汁で樽を充満させるのではなく、指3本分くらいの空間を空け、シリコンの栓で密閉する。スペースをつくることで、発酵を促すのだ。

 やがて暖かくなると樽の中の液体は発酵を始め、寒くなると発酵が止まる。これを34年繰り返す。発酵が始まると樽の中のガス圧が高くなり、時折、樽に亀裂が入って中の液体が染み出たりすることがあるがこの現象を、「樽が泣く」という、何ともロマンティックな表現を使っているが、

「いっぱい泣かれると、今度はボクが泣きたくなるんだけどネ。」とマルコ。

 発酵の期間である4月から10月はだから、週に23回、泣いていないか樽をチェックし、滲み出していたら樽を修復する。

 「放置」ではなく「見守られ」ながら、カラテッロの中で約7年の熟成を経たヴィンサントは、ボトリングされる前にも静置して不純物を取り除く。

 乾燥から発酵・熟成を経てカラテッロを出る頃には、その液体は収穫量の10%以下にまで減っているというから、その濃縮度合いは安易に想像できよう。

 ボトルに移されてから更に2年の熟成を経て市場に出荷。

 収穫から実に、9年半(!)もの歳月を経てリリースされるということになる。

 エノロゴであるアッティリオ・パーリ氏は、ボトル熟成を更に一年長くすることを勧めている。そうすることでフレッシュさが増しバランスが整う、というのだ。

 そしてマルコは、このセミナーの結果で、どうするかを判断するのだそうだ。


 永い歳月を経てリリースされたヴィンサントは、濃厚の極み。

 しかし、ただ濃くて甘いだけではない。

 濃縮した果汁による甘さに加え、美しく伸びやかな酸と、極めて複雑な味わいを呈する。

 香味に濁りがなくクリーンだから、たとえ複雑な味わいであっても、容易に特徴を捉えやすい。

またマルコは、「<揮発酸>をヴィンサントの特徴と考えている人がいるが、あの香りは特徴ではなくて欠点だ。」と言った。その言葉通り彼のヴィンサントには、セメダインなどに代表される香味は感じられなかった。


 今回、マルコのヴィンサントを以下の10ヴィンテージ、テイスティングした。

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「ヴィンサントの醸造は試行錯誤の繰り返し。

 伝統を保持しつつ、良くないと思うことは改善する。ネットを使ってブドウを吊る方法は、2000年のヴィンテージから始められたことだし、一時マルヴァジア・ビアンカにほんの少しカナイオーロ・ネロをブレンドしたこともあったが今はそれもやめて、現在のスタイルが最良と判断した。

 今気になっているのは、エノロゴのアッティリオが勧める<ボトル熟成を長くする>かどうか。それを今、決めようと思う。参加者の皆さんの意見を聞きたい。10のヴィンサントの中で2つ、良かったものを選んで、教えてほしい。」

 と彼は言った。

 実際に比較すると、ヴィンテージによる差は外観からも捉えることができるほど異なるものもあった。

 2000年と2001年を比較しても、2001年はアルコールを感じる香り、酸度が強いがアフターに甘みが残る。対して2000年は、暑いヴィンテージを反映してか、ハーブ系のアマーロを想わせる香り、複雑性そして、苦み。

 といった具合。

 僕が気に入ったヴィンテージは、2000年と2005年だった。

 そして意外なほど、この2ヴィンテージを好む参加者が多いように感じた。

 この結果を聞いてマルコは、

「アッティリオのアドバイスが正しいことが判ったよ。実は2005年ヴィンテージ。これは他と異なり陰干しがゆっくり、そして貴腐菌の付着もゆっくり進んだ年だった。できあがったヴィンサントを飲むとボクは納得できなかったんだけれどアッティリオは、『熟成させれば大丈夫。』と言ったんだ。そして実際、あなたたちはそのヴィンテージを好きだと言った。彼はすごいよ!だから彼のアドバイス通り、ボトル熟成を1年長くすることを、今決めたよ。」


 少し前、このヴィンサントを抜栓して一年経過したものを飲んでみたが、びっくりするほど味わいに変化がなく、しかも美味しく飲めた。このことを話した全ての人は驚いたが、今回通訳して下さった宮嶋さんは違った。


「もともと酸化しまくったワインだからね(笑)

 変わろうにも変わりようがないんですよ。」


 僕は上質なデザートワインを常備したレストランが大好きだ。

 これがあるのとないのとでは、お店を出た時の満足度に差が出る。

 僕が言うと「営業トーク」と思われても仕方がないが、それでも敢えて言おう。

抜栓して一年も品質が変わらないものなら、上客への対応力を高く評価され店舗の売上にも貢献する。そうでありながら、損することがないという稀有なワイン。

それがマルコのヴィンサントだ。


「ワインは食事と共にあるもの。でもヴィンサントは例外。

 ひとたびこれを飲めば、世の中のセカセカした時間を忘れさせてくれる。

 そういうヴィンサントをこれからも、造り続けたい。」


 念願のヴィンサントだけのセミナーを終えたマルコはそう言って、満面の笑みを浮かべた。


業務用イタリアワインなら! エノテカビアンキッ!! 造り手の努力の結晶は、より多くの人に知ってもらいたいやん? ~


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by enotecabianchi | 2018-04-09 18:43 | セミナーレポート! | Comments(0)